どうしようもないままで美しい僕ら

かんがえたことと日々の記録

記憶について

記憶は遠い。人とかかわり、その人のことを知ったつもりになったとしても、その人の記憶には辿りつけない。記憶というのはその人の血であり肉である。他人のそれを、ときどき手繰りよせることもできる。断片を見せてくれることもある。その人が見たものをわたしが見ることはできない。わたしは知らない。その人の現実の中では、わたしの知らないことのほうが知っていることより多い。だけれど、その人がどんな人かということはわかる。その人の存在は知っている。近いと思ったとしても、かぎりなく遠い部分が、他人のなかにある。他人が手にすることのできないそれは、ふとしたときにその人のなかにたちあらわれ、誰にも知られることのないまま、抱きしめられたり手放されたりしたあと、永遠のなかに消えて行く。そんな場所が、どの人の心の中にもきっとあるのだった。いちばん遠い場所の話。